オカルト

【長編恐怖怪談】夏が近いから怖い話する〜ぶくぶく〜

投稿日:

夏が近いから怖い話します。台風の低気圧のせいで頭痛がひどいです。

本日お送りするのは「ぶくぶく」というお話。

ぶくぶく

2019年6月27日 くもり

 

数日前にメンテナンスしたばかりの自転車に乗りながら、僕は地元にある家電量販店へ向かっていた。

 

かれこれ1年ほどは海外で過ごしていたから、自転車に乗る機会そのものがなかった。

日本に帰ってきてから4ヶ月が経とうとしているが、別段自転車の必要性が感じられず、つい何日か前に自転車を直そうなどと思いつくまでは、いわゆる放置自転車そのものだった。

もともと日本を旅するために購入したもので、イメージとしてはロードバイクに近い形をしている。荷物をたくさん積めるように設計された、ツーリングバイクというものらしい。

このまま自転車置き場で朽ち果てさせるのはさすがに可哀想だし、近頃はずっと家に引きこもってばかりだったから、運動がてらまた自転車を趣味にしてみるのもいいかなと思ったのだ。

 

それから僕は、メンテナンス道具をネットショッピングで一通り揃えた。合計すると2万円ほどの出費だった。想定よりも高くついたが、趣味に関しては費用対効果はあまり考えないことにしている。そのほうが精神衛生上によろしい。

いざ作業に取り掛かろうと薄汚れた自転車カバーを外すと、あちこちの部品が茶褐色に錆びついていて、新品だった頃の姿なんてとても思い出せないほどのひどい状態だった。

まず僕は、ネットで自転車のクリーニングに関する情報を集めた。それから、再び自分がピカピカの自転車にまたがっている姿を想像しながら、タイヤを新調したり、ブレーキの調整をしたり、フレームを磨いたりした。素人ながらに手は尽くしたつもりだ。

 

その甲斐あって、こうしてまた自転車のペダルを踏み、心地よい風を感じられている。

やはり自転車はいい。徒歩よりも格段に行動範囲が広がるし、なにより風を全身で受けている感覚が気持ちいい。おそらく、自分の手で直したことも影響しているのだろう。

 

僕はすっかり調子のよくなった自転車で、自宅から20分ほどの距離にある電気屋へ来ていた。

 

なにしろ初めての道がほとんどだったから、まるでまったく知らない土地を走っているような錯覚に陥った。

一人だけぽつんと世界に取り残されたような、どことなく寂しい疎外感を感じながら、僕はなんとか目的地にたどり着くことができた。

 

ネットで店を検索するまで、こんな場所に家電量販店があるとは知らなかった。

そもそも、たった数年で地元の電気屋はことごとく潰れていた。たしかに、商品を手にするのは店頭なのかもしれないが、買うのはネットであることがほとんどだ。

便利になればなるほど、淘汰されるものも多い。人間社会も弱肉強食の世界ということなのだろう。

 

僕は自転車を駐輪場に停め、店内に入った。平日の昼間だからか、客は少ない。

僕は目的のBluetoothのキーボードを探してみたものの、目当てのモデルがなかったため、5分とも経たずに店から出てきてしまった。

ノイズキャンセリングヘッドホンも見たかったのだが、暇そうな店員の話し相手になる気はさらさらなかったので、足早にその場を去った。

 

駐輪場まで戻ると、僕は自転車のそばに立ち、スマートフォンで欲しかったBluetoothのキーボードを注文した。

なぜ最初からそうしなかったのかと言うと、自転車に乗りたい気分だったのがひとつと、今週はほぼ毎日のように荷物が届いているから、というのがふたつ目の理由だ。

僕には、必要だと判断したものは後先考えずにネットで即購入してしまうきらいがある。そのせいで、宅配のお兄さんに対して少しばかりの罪悪感と気まずさを感じているのだ。

 

ふと空を見上げると、干からびたねずみのような色をした分厚い雲が広がっていた。朝のニュースでは、日本列島に台風が近づいているとも言っていた。

おそらく、雨が降り出すにはまだ時間があるが、できるだけ早く家に帰らなくては。メンテナンスしたての自転車をまた錆びだらけにするわけにはいかない。

 

僕は自転車のキックスタンドを勢いよく足で蹴り上げ、家電量販店の駐輪場から飛び出した。

 

帰りは来た道をまっすぐ戻るだけでいい。人通りも車通りも少なく、そんなに複雑な道ではないから、僕は自転車を漕ぐことだけに集中できる。これは数少ない田舎の利点とも言える。

 

そのとき僕は、横幅が車1台半ほどの狭い道を走っていた。車は通れず、地面にはそれぞれ自転車と歩行者のマークが左右に分かれて描かれていた。

僕から見て道の右側は人家が並んでいて、左側には2mほどの緑の柵が道路沿いに並べてあった。

柵で仕切られた向こうには、横幅と高さともに1mほどのくぼみが道に沿ってずっと通っていて、そこには水が流れているのが見えた。

 

突然、片耳だけにつけていたBluetoothのイヤホンの挙動がおかしくなった。僕は普段、雨音のBGMを聴くことが多いのだが、それがいきなりブツ切りになった。

いや、それはなんというか、女の叫び声を逆再生して高速で回しているような、なんとも不気味な音だった。

 

キィィィィィアアアアア

ギャギャギャアアアアアア

キュルキュルィィアアアアア

 

本来、自転車に乗りながらイヤホンをするのは危険な行為なのだが、僕は聴覚過敏らしく、逆にイヤホンをしていないと気分が悪くなってしまうことがあるのだ。低気圧が近づいているときは、特に。

そのため、聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で、片耳だけにイヤホンを挿し、薄っすらとBGMを流していた。不気味な音というのも、それほど大きい音ではなかったから、びっくりするというより"気味が悪いな"という程度の印象だった。

 

そう思った瞬間、なんの前触れもなく自転車のチェーンが外れた。ギアも変えていないし、ブレーキをかけたわけでもない。

メンテナンスをしたばかりだし、点検もしっかりとやったし、テスト走行も行った。なのに、どうして。とにかく、チェーンが外れてしまった。

 

仕方なくその場で自転車を止め、チェーンを直そうとしていると、50mほど離れた前方の道路に立つ人影が目に入った。

遠目からでも、かなり大きい体格の持ち主であることがわかる。体重100kgはゆうに超えているであろう。

道幅が狭いこともあり、自然と人影に目が行くわけだが、その人物が自転車に近づくにつれ、なにやら様子がおかしいことに気づいた。

 

歩き方がおかしいのだ。

 

地面から数センチほど飛び跳ねながら進んでいるようにも見えるし、小刻みに震えながら歩いているようにも見える。

やばい、と思った。おそらく、あれは常識で説明できるものではない。僕は幽霊の類を一切信じていないものの、あれはとにかく関わってはいけない何かだと思った。

足の爪先から頭のてっぺんまで一瞬にして鳥肌が立ち、僕という人間を構成する全細胞が逃亡を促していることがはっきりとわかった。

 

しかし、そんな気持ちとは裏腹にチェーンはなかなか噛み合わってくれない。まるで歯車になることを自ら拒否しているような印象さえ覚える。

30m、20mと、だんだんその人影の外見が明らかになってくる。

見てはいけないとは思いつつも、危機感か、好奇心からか、つい目に入れてしまう。

 

大きい身体にぴったりと張り付いた黄ばんだようなTシャツ。中央には丸い黄色い絵柄が描かれている。

靴は履いておらず裸足。足の爪は真っ黒だ。飛び散った血が乾いたような模様が入った紺色の短パンを履いている。

 

左右の手はカマキリのように前に構え、首は少し右に傾き、白黒映画のコマ送りのような異様な動き方をしている。

首と身体の動きが合っていない。まるでハトが首を前後させるような運動を縦横無尽にリズムよく行いながら、身体は車に轢かれたあとのカエルのようにびくびくと痙攣させている。

たとえるなら、通常の人間の倍速で動いているが、この世の法則に動きを制限されているような、そんな変な挙動だった。

 

なにより気味が悪かったのは、顔が"ぶくぶく"に膨れ上がっていることだった。何万匹というハチに刺されても、ああはならない。

どこに目や鼻や口があるのかもわからないし、そのせいで性別も判断できない。

髪は肩ぐらいの長さで、べっとりと肌に張り付いていた。なぜか首から上だけは、プールからあがったばかりのようにびしょびしょに濡れていた。

 

もう間に合わなかった。チェーンがうまく噛み合った頃には、すでに"あれ"は僕のすぐ側まで進んできていたし、気づくと辺りにはドブの匂いが立ち込めていた。

腐ったドブをこして、特に濃いドブを、またさらに腐らせたような、そんな不快極まりない匂いだ。

 

ずず、ずずず、と和食に不慣れな外人がうどんをすするような音を立ててこちらに向かってくる。

足を引きずっているような音だが、"あれ"の動きとはやはり噛み合っていなかった。

音に対しての動きがあっていないし、身体の震えとも言うべき痙攣のような動きは、明らかに常識の範囲を脱していた。

 

そのとき僕はすでにイヤホンを耳から外していたのだけれど、叫び声を逆再生して倍速で流しているような音は耳にこびりついたままだった。

耳というか脳に直接響いているような、かと思えば"あれ"から発せられているような、そんなおかしい感覚がした。

 

よく耳を澄ませてみると、叫び声のような高音に混じって言葉らしきものも聞き取れた。

複数人の子どもや大人の男女が口論している音が幾重にも重なり、それを倍速で再生しているような、そんな音。

声の高さも、速さも、声質も、言葉に込められた感情も、そのどれもが統一されていない。

狭い箱の中に何人もの子どもや大人が無理やり押し込められて、外から大きな手で握りつぶされている光景が頭に浮かんだ。

言葉というべきか、声というべきかはともかく、"あれ"が音を発するときは、泡を"ぶくぶく"と吹くような音も鳴る。それがなんとも不気味だった。

 

僕はその場から動くこともできず、あまりの恐怖に"あれ"を直視することもできず、永遠を数秒にぎゅっと凝縮したような地獄に、ただただ身を委ねることしかできなかった。もはや息をしていたかもわからない。

かといって、"あれ"から完全に視界を外してしまうと大変なことになると思った。なぜかはわからないが、直感的にそう思った。僕は直視はせず、視界の隅のほうで"あれ"を常に捉えていた。

 

相変わらず魚がぴちぴちと飛び跳ねるような動きをしつつも、その音は一切しない。

ブルブルと小刻みに振動しながら移動し、ずずずと音を立て、叫び声のような甲高い音をどこからともなく発している。歩いているというよりかは、這っているという表現が近い。

顔面はバスケットボールよりも大きく腫れていて、張り付いた黒い髪がまるで生き物みたいにうねうねと蠢いているのが直視せずともわかる。

 

ついに"あれ"が僕のうしろにまで差し掛かりそうだった。そのとき僕は緑の柵のほうに顔を向けていたから、ちょうど人家側を、僕はの背中側を"あれ"が通り過ぎる形になっていた。

その瞬間、僕の視界から"あれ"は完全に外れてしまう。右側から近づいてきたものが、左側に行くだけのことなのだが、僕の背中を通るその瞬間、"あれ"は僕から完全に切り離された存在になる。

そのときに何が起こるかはまったくわからない。想像ができない。ただ、それが"いけないこと"なのはなんとなくわかる。本能がそう言っている。

 

しかし、もう遅かった。"あれ"は僕の視界から消え失せてしまった。たしかにそうなのだが、"あれ"が背中を通り過ぎる一瞬だけだ。また左側に視覚を移せばいい。

それから僕は"あれ"の進行方向、つまり僕の左側の道路にそっと目を移動してみたものの、一向に"あれ"が現れる気配がない。

一瞬、嫌な想像をしてしまった。僕の背中にぴったりと張りつき、僕が振り向くのを待っているんじゃないか。ぶくぶくに膨れ上がった顔でこちらを恨めしく覗き込んでいるんじゃないか、と。

だが、ずっとこのままいるわけにもいかない。

 

僕は、意を決して、思い切りうしろを振り向いた。しかし、そこに"あれ"の姿はなかった。"あれ"は忽然と姿を消してしまった。

ふと気がつくと不気味な音や匂いの類は一切なくなっており、そこには何の変哲もない日常だけが広がっていた。

 

やはり、疲れているのかもしれない。Bluetoothの不具合が原因で幻聴を聞いてしまったのかもしれないし、低気圧の影響で幻覚を見てしまったのかもしれない。

ともかく、脳が何らかの異常をきたしていることはたしかなようだ。帰ったら少し休もう。

 

そういえば、僕は前にもドブの腐ったような匂いを嗅いだことがある。

ひとりかくれんぼをしていて、玄関に身長5mほどの真っ赤な女が腰を折り曲げて立っていたときもそうだった。

友人の運転する車が、クモが無理やり折り畳まれたような形をしている女の上を通過したときもそうだった。友人には見えていなかったようだが、女が現れる前にラジオが異音を放ったのは車に乗っていた全員が聞いている。

どうやら、異音とドブの腐った匂い、そして得体の知れない何かには何か関係性があるのかもしれない。

 

そんなことを考えつつ自転車にまたがり、Bluetoothイヤホンを再び片耳にだけつけると、僕はペダルに足をかけて、ふと前方に目をやった。

 

50mほど先の道路にぶくぶくに膨れ上がった顔の"あれ"が立っているのが見えた。やり直しだ。

 

さいごに

ここまで「夏が近いから怖い話する〜ぶくぶく〜」をお読みいただきありがとうございます。

今回のお話は、あくまで「創作」です。どこまでが真実なのかはご想像にお任せします。

怖い話リンク

似たような感じで、「3連休だから怖い話する〜隙間〜」と「3連休だから怖い話する〜ニタニタ〜」も書いてます。

【長編恐怖怪談】3連休だから怖い話する〜隙間〜

3連休だから怖い話します。本日お送りするのは「隙間」というお話です。

【長編恐怖怪談】3連休だから怖い話する〜ニタニタ〜

3連休だから怖い話します。本日お送りするのは「ニタニタ」というお話です。

こっちでは僕が実際に体験した恐怖体験談も書いてます。

ゾッとする怖い話。実際に体験した怖い話・恐怖体験談をまとめてみた

だんだんと蒸し暑くなってきて、夜まともに寝つけないという方もいらっしゃるのではないでしょうか? 怖い話と恐怖体験談でガッツリ体温を下げて、暑い夏を乗り切りましょう。余計に寝つけなくなる可能性もなきにし ...

当ブログ一押しの恐怖体験談「ひとりかくれんぼ」もどうぞ。

今後の励みになりますので、気に入ったらシェアお願いします!

-オカルト

Copyright© 略してとりてみ , 2019 All Rights Reserved.